韓国と北朝鮮の身長差から遺伝ではなく環境因子の影響を今回は考えます。
韓国(南)と北朝鮮(北)は、もともと同じ「朝鮮半島」に住んでいた人たちで、遺伝的にはかなり近い集団だと考えられています。
それなのに、研究データを見ると
- 北朝鮮で育った子どもたちは、韓国の子どもより数センチ〜10cm以上も低い
- 体重も数kg軽い
という結果が、複数の論文でくり返し報告されています[1][2][3]。
■ どれくらい身長差があるのか?
1️⃣ 未就学児(小さい子ども)の場合
南北の身長差をまとめたメタアナリシス(いくつもの調査をまとめて解析した研究)では、
- 1997年ごろ
- 韓国の未就学児は、北朝鮮の子どもより平均6〜7cm高く、体重は約3kg重い
- 2002年には
- 身長差は約8cm、体重差は約3kgと報告されています[1][3]。
さらに別の研究では、
就学前の子どもで、最大13cm、体重で7kgの差があるとまとめられています[2]。
研究ごとに差はあれど、生まれてから6歳〜7歳の時点で韓国と北朝鮮の間に大きな身長差が出ていることが分かります。
2️⃣ 韓国に来た(亡命した)「北朝鮮出身の子ども・ティーン」を比べると?
韓国に亡命・脱出してきた北朝鮮出身の子どもたち(難民・脱北者)を、同じ年齢の韓国の子どもと比べた研究もあります。
- 思春期〜10代前半の子どもでは、
- 身長が約5〜16cm低い
- 体重が数kg〜15kgほど軽い という結果が報告されています[3]。
また、韓国に来てしばらく栄養状態が良くなると、
- 体重はかなりキャッチアップする
- それでも身長だけは韓国の同年代より低いまま
という傾向が見られています[3]。
3️⃣ 栄養状態の指標「低身長(stunting)」でも大きな差
子どもの栄養状態を測るとき、
「年齢のわりに背が低いかどうか(=身長−年齢のZスコアが−2SD未満)」を
「低身長」と呼びます。
北朝鮮についてのレビュー論文では、
- 1998年には、約62%の子どもが低身長
- 2012年になっても、約28%が低身長のまま
と報告されています[3]。
最新の国際データでも、
- 北朝鮮の5歳未満の子どもの約 19%が低身長 と推定されています
(アジア平均21.8%よりは少しマシだが、決して少なくはない)[6]。
一方、韓国側では低身長の割合はずっと低く、
「成長の土台となる栄養と環境」が、大きく異なっていることが分かります[3][4][5]。
■ なぜここまで身長に差がついたのか?
大きな理由として、論文では主に次の3つが挙げられます。
① 慢性的な食料不足と栄養不足
北朝鮮では、1990年代に深刻な食料危機があり、
その影響を受けた世代の子どもたちの身長は、特に低くなっていることが分かっています[3]。
- エネルギー(カロリー)不足
- たんぱく質不足
- ビタミン・ミネラル不足
が長く続くと、
体は「生き延びること」を優先して、「背を伸ばすこと」を後回しにしてしまいます。
これが「低身長」のメカニズムのひとつです。
② 地域による格差(同じ北朝鮮の中でも)
北朝鮮国内でも、
- 平壌(首都)
- 山間部の地方(例:両江道)
など地域によって、
低身長の割合が大きく違うことが報告されています。
- 2012年の調査では、平壌の低身長は約20%
- 一方、両江道では約40%と、倍ちかい差があったとされています[3]。
これは、同じ国・同じ民族でも、地域ごとの食料事情・インフラ・支援状況で成長が変わることを示しています。
③ 韓国に渡ると「体重は戻るが、身長は戻りきらない」
韓国に移り住んだ北朝鮮出身の子どもたちを追った研究では、
- 韓国に来てから数ヶ月〜数年で、
- 体重はかなり改善し、韓国の子どもとほぼ同じレベルまで近づく
- しかし、
- 身長は最後まで追いつかないケースが多い
という結果が出ています[3]。
これは、
幼い頃(特に0〜2歳ごろ)の栄養不足で「身長の伸び時期」を逃してしまうと、
あとから栄養を増やしても、完全には取り返しにくい
という「成長のタイミング」の重要性を示しています。
■ 遺伝ではなく「環境」で説明できる差
複数の論文では、
「北と南は遺伝的には近いが、身長差は大きく、これは主に環境要因による」
と結論づけています[1][2][3][7]。
つまり、
- 「北朝鮮の人は遺伝的に背が低い」のではなく
- 長期にわたる栄養不足・医療や衛生の格差・社会経済状況の違い
が積み重なった結果、
「たまたま北で生まれた子どもたちが、十分伸びきれていない」
という構図になります。
■ ここから何が分かるのか?
この南北の身長差から、次のようなポイントが見えてきます。
- 身長は「遺伝だけ」で決まらない
遺伝はたしかに大きな要素だけれど、
「どんな栄養」「どんな環境」で育つかで、同じ民族でもここまで差が出る。 - 特に幼児期(0〜2歳ごろ)の栄養は“将来の身長”にとても重要
この時期の栄養不足は、あとから取り返すのが難しいと、多くの研究が示している。 - 国レベルの政治・経済・食料事情が、子どもの体つきにそのまま現れる
身長は「国の健康状態を映す鏡」のような役割も持っている。
今回の論文の調査では身長を伸ばすためには栄養素が非常に重要な役割を担っていることが分かりました。
戦後の日本から栄養状態が改善することで日本人の平均身長が高くなってきたことを踏まえると、韓国と北朝鮮の身長差は納得がいくと思います。
以上を踏まえると、親としては身長を伸ばすために子供のための栄養についての取り組みが非常に重要だといえます。
参考文献
[1] Schwekendiek D, Pak S. Recent growth of children in the two Koreas: a meta-analysis. Econ Hum Biol. 2009;7(1):109–112.
(1997・2002年の南北の子どもの身長差を6〜8cm・体重差3kgと報告)
[2] Schwekendiek D. Height and weight differences between North and South Korea. J Biosoc Sci. 2009;41(1):51–55.
(就学前の子どもで最大13cm・7kgの差があることを報告)
[3] Lee SK. North Korean children: nutrition and growth. Ann Pediatr Endocrinol Metab. 2017;22(4):231–239.
(北朝鮮の栄養調査のまとめと、南北の身長差・低身長率の推移・難民児の追跡結果を詳しくレビュー)
[4] Choi SW. Changes in health status of North Korean children and adolescents.(レビュー論文)
(韓国に入国した北朝鮮難民の子ども・ティーンの健康状態を総括)
[5] Kim SY et al. Comparing the nutritional status of children and adolescents from North Korean defector families and South Korean children. BMJ Open. 2021.
(北朝鮮出身家庭の子どもは、韓国の子どもより低身長・低体重や栄養不良の割合が高いと報告)
[6] Global Nutrition Report. Democratic People’s Republic of Korea – Country Nutrition Profile.
(北朝鮮の5歳未満児の低身長(stunting)19.1%などの最新推計を掲載)
[7] Andrews TM. “Are Humans Evolving?” A Classroom Discussion to Change Students’ Misconceptions of the Theory of Evolution. Evo Edu Outreach. 2011.
(北朝鮮と韓国の身長差を「栄養が身長に与える影響」の例として紹介)



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